ことのは塾のことのはブログ

ことばの専門塾を主宰する在野の言語学者が身近な言葉の不思議について徒然なるままに好き勝手語ります。

おじさん

「おじさん」

 

寂しい響きです(笑)

知らないうちに、私自身、立派なおじさんとなりました。おじいさんまではもう少し…時間が…あるはず!

 

さて、今日は「おじさん」です。休み時間に生徒さんと雑談している中で、「おじさん」って、どうして「身内のおじさん」だけでなく、「一般的な年配の男性」を意味するのか、という質問を受けました。面白いですね。ちょっと今日はこの疑問に答えてみたいと思います(同じ説明が「おばさん」にも当てはまります)。

 

まず、『広辞苑』で「おじさん」を引くと、

 

① 伯父・叔父を敬って、また親しんで呼ぶ語。

② (「小父さん」と書く)(主に年少者が)よその年配の男性を親しんで呼ぶ語。「隣の_」

 

とあります(魚の「オジサン」の説明は省きます)。

 

①の定義をよく見ると、興味深いことに気が付きます。

それは何かというと、身内の「おじさん」の場合、「おじ」+「さん」の2つの要素に分解できることが分かります。そして、この分解した後の「おじ」単独では、「伯父・叔父」を指すことはできますが、「よその年配の男性」を指すことはできなくなる、ということです。「隣の家のおじさん」の意味で「隣の家のおじ」とは言えないですよね。逆に言えば、②の「おじさん」はこれ以上分解することができない、ひとつの要素となっているということを意味します。

これを簡単に表記すると、

 

①のおじさん ➡ [ [おじ] さん ](=名詞+敬称)

②のおじさん ➡ [ おじさん ](=単独の名詞)

 

となるわけです。つまり、表層は同じでも、厳密に言えば、①と②の「おじさん」は単語の構造(形態論)という点から見ると異なるものである、ということになります。

 

①の「おじさん」がこのように2つに分けられることは、日本語の「呼称」と「言及語」という人称語の体系からも裏付けられます。

 

例えば、「おじさん」は「呼びかけ」にも「言及」にも使用できますが、「おじ」は呼びかけには使えず、言及のみです。

 

例)「今度私のおじさんに紹介してあげる」vs.「今度私のおじに紹介してあげる」(言及)

  「おじさん、待ってよ!」vs.「✖ おじ、待ってよ」(呼びかけ(呼称))

 

では、①、②の語が最初から別の単語として存在したのか、と言えばそうではないと思います。②は①からの拡張事例であると思います。

 

つまり、もともとは身内を指す「言及語」である「おじ」に接辞「さん」が付き、「呼びかけ語(呼称)」としての機能も加わり「おじさん」という語になります。「父母の兄弟」であることから、「おじさん」を構成する意味的な要素として「父母の年齢周辺の男性」があります。この部分が「よその男性」にも適用され、自分から見て「父母の年齢周辺の男性」が「おじさん」となるわけです。さらに、遠い関係の他人ですから、言及するにしても呼びかけるにしても敬称として「さん」を外すことはできないため、この意味の場合には常に「おじさん」としなければなりません。ですので一つの単語として機能することとなり、「よそのおじさん」は常に「おじさん」なのです。