ことのは塾のことのはブログ

ことばの専門塾を主宰する在野の言語学者が身近な言葉の不思議について徒然なるままに好き勝手語ります。

森羅万象(今回は毒吐きます)

久々の更新です。

そして、いつもならこのブログでこのような話題に触れることはないのですが、さすがに今回は「え??」という思いでしたので、簡潔に触れます。毒を吐きます。

 

 

 2019年2月6日の参院予算委での安倍首相の発言が話題になっています。厚労省の統計不正に関して、国民民主党足立信也議員から「特別監察委員会の報告書を読んだか」と質問された安倍首相は「報告書そのものは読んでいない」と開き直った上で、「総理大臣でございますので、森羅万象すべて担当しておりますので、日々さまざまな報告書がございまして、そのすべてを精読する時間はとてもないわけでございます。世界中で起こっている、電報などもあるわけです」と述べました。

 

 世間の多くが「え???今、何て??」目が点になります。

 この発言を受けて、当日のツイッターをはじめとするSNSやニュースのコメント記事など、ネットはお祭り状態になります。「安倍ゼウス!」「現人神宣言」「そうか、近年の異常気象や自然災害も安倍のしわざか」などと大喜利状態で、ザワつきが収まらない様子でした。中には「単なる覚え間違い、言い間違いでも大問題だけれども、意味を正しく理解したうえで本気で言ってそうで怖い」と懸念する方もおりました。

 ま、そんな深い意図はないでしょう。何しろ、我が国の総理大臣は「云々(うんぬん)」を「でんでん」と読むような立派な知性と教養の持ち主です(その前に「未曾有(みぞう)」を「みぞうゆう」と読む素敵な元総理・現副総理もいます)。きっと「森羅万象」を本来の意味である「宇宙間に存在する数限りない一切のものごと」(『広辞苑』)という意味を理解せず、漠然と「色々なこと、全て」程度に理解して使用しているのでしょう。何しろ総理が国会の場で「森羅万象」を使うのは初めてではありませんから、ご本人なりに定着した語彙のはずです。「厚顔無恥」とはこういう立派な総理大臣のためにある言葉だと思います。

 中には「言い間違いや勘違いくらい誰にでもあるのだから、大目に見ろ」という意見もあるでしょう。その通りです。かく言う私だって言語学の博士とはいえ、専門は英語学です。書けない、読めない漢字だってあります。間違い自体には寛容であるべきという意見も理解できます。しかし、そういう姿勢は「間違いから学ぶ謙虚な姿勢のある人」に対しては有効かもしれませんが、我が国の総理のように「開き直り」を信条とする芯の通った方にはあまり意味がないように思われます。反知性主義などという立派なものではなく、ただの無知・無教養です。こうした方がトップであるうちは、日本の学術環境が向上することなど夢のまた夢です。

 いいですか、これをお読みの中高生の皆さん!総理は「無教養であること、無知であることの恥ずかしさ」を、身を削って我々国民に示してくれているのです。そんな総理の教育再生政策の一環として2020年度から、大学入試が「知識偏重」から「思考力重視」の問題形式に変わります。素晴らしいことです。よく考えてください。「知識」は「思考の種」です。あることについて思考する場合、関連する知識がなければそのことについて深い思考などできるはずもありません。深い思考を可能にするのは相当量の知識とそれを整理・表現できる語彙力なのです。皆さんは、安倍総理を「お手本」として最低限の知識と教養を身につけた人になりましょう!