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ことばの専門塾を主宰する在野の言語学者が身近な言葉の不思議について徒然なるままに好き勝手語ります。

詐欺メールのおかしな日本語

今回は、詐欺メールへのツッコミです。これをお読みの皆さんも、PCやスマートフォンにいわゆる「迷惑メール」が届くことがあるかと思います。明らかに心当たりのないものが多いのですが、中にはうっかりすると騙されてしまいそうになるものもあります。今回は私によく届く3つのメールを取り上げ、「日本語のここを見ると騙されずにすむ」というポイントを紹介します。

 

 

1.「ゆうちょ銀行」を騙るメール

先日、プライベートで使用しているPCのメールに次のようなものが届きました。差出人は「ゆうちょ銀行」、タイトルは「ゆうちょ銀行からのご連絡」となっています。

 

ゆうちょ銀行をご使用いただき、ありがとうございます。 今回、お客様のゆうちょ銀行のアカウントが第三者によって不正にログインされた可能性が高いです。お客様の資金安全を確保するため、このメールを送信しましたが、ご本人の登録でしたら、このメールを無視してください。本人登録で なければ、直ちに対策処理をしてください

本人登録出ない場合の対策処理のURLは下記の通りです。

 

ふむふむ、それは大変だ、さっそく手続きを….となるかいっ!!!!

まあ、普通の人が読めば何か違和感を覚える文面ですよね。

 

まず、こんな特定の個人向けの大切な話を「宛名」もなしに送り付けてくることはありません。例えば、実際に不正ログインを受けたことのある楽天からは、きちんと私の個人名を宛名として表記した文で通知が来ました。きちんとした企業からの本物のメールであれば、いわゆる客・会員一般へ宛てたメールに「お客様各位」程度の記載はあるでしょう。まして、個人宛てのメールに個人名が記載されないことはありません。

 

次に「アカウント」という表現です。ここで言う「アカウント」って何を指しているのかよく分かりません。何かの会員のアカウントでしょうか?それとも銀行口座という意味でのアカウント(bank account)でしょうか?ちなみに、私はゆうちょ銀行を利用しておりませんので、後者の意味でないことは確かです。

 

そして、極めつけは、へたくそな日本語です。これが本物のメールだとしたら、ゆうちょ銀行および日本郵政グループの恥さらしです。関係者は切腹ものです。「不正にログインされた可能性が高いです」って子供のような書き方です。さらに、「ご本人の登録」って何でしょう?何だかは分からないけれども、すでに登録してあるからログインするんじゃないの??意味が分かりません。

 

最後に本文に添付されているURLです(ここでは載せません)。中にjp-bankだのjapanpostだの本物をアピールするこのような文字がありましたが、後半は不正サイト得意の意味不明なアルファベットと数字の羅列です。怪しさ倍増です。

 

2.「LINE」を騙るメール

最近、LINEを騙る偽物メールもよく届きます。これも、上の「偽ゆうちょメール」と同じく日本語がおかしいのですぐにわかります。こちらの文面はこのようなものです。ちなみに件名は「LINE緊急問題」です(笑)この段階で既に噴飯ものです。

 

お客様のLINEアカウントに異常ログインされたことがありました。お客様のアカウントの安全のために、ウェブページで検証してお願いします。

こちらのURLをクリックしてください。安全認証

 (筆者注 ここに偽サイトURL)

この時、旧端末のLINEへ公式アカウント(LINE)から「他のスマートフォンであなたのアカウントが使用されようとしています」というメッセージが届きますが、もちろん自分で操作していることなので、そのまま手順を進めましょう。

  

「異常ログインされたことがありました」って完了形を習い始めたばかりの中学生の和訳みたいですね。「ウェブページで検証してお願いします」って何でしょうか(笑)何を検証して、何をお願いされたのか分かりませんので、何もしませんでした。「もちろん自分で操作していることなので、そのまま手順を進めましょう。」子供への指示文ですね。企業が顧客へ指示する文面ではありません。そもそも私はLINEをPCで利用することはないので、常に他の端末へのログインを不許可として設定しています。万が一不正アクセスを試みられた場合にも、PCのメールではなく、スマホのLINEに通知が来ますが、上のメッセージにあるような文面ではありません。

 

3.「OCN」を騙るメール

今、この記事を執筆中に届きましたので、追加します(笑)文面はこんな感じ。

 

お客様各位 親愛なるOCNユーザーこのメッセージは、あなたのOCNアカウントがブロックされないように、新しい機能にアップグレードする必要があることを通知することです。親切に以下のリンクをクリックし、ページにログインしてアカウントをアップグレードしてください OCN電子メールアカウントを再度アクティブ化するには、ここをクリックしてくださいこのメールは、フォローアップすることが義務付けられていますが、そうしないと、アカウントが最後に閉鎖されます。

ご挨拶、OCN電子メール管理者 

 

 もう改行も句読点もめちゃくちゃ。「このメッセージは、あなたのOCNアカウントがブロックされないように、新しい機能にアップグレードする必要があることを通知することです。」これは「ねじれ文」ですね。「このメッセージは…通知することです」となっていますので、主題と述語がうまく対応していません。「通知するものです」なら分かります。さらに、「親切に以下のリンクをクリックし」って、親切にクリックって何ですか??(笑)ソフトタッチでクリックするのか??タッチパネルじゃないんで無理です…。本文最後の「そうしないと、アカウントが最後に閉鎖されます。」も子供がいたずらしたような文面ですね。「ご挨拶、OCN電子メール管理者 」に至っては、もう偽物であることを自ら証明しているような書き方です。ビジネス文書も書いたことがないのでしょうか。本物ならOCNを運営しているNTTコミュニケーションズは関係者全員切腹です。この偽メールの唯一素敵なところは、誘導するはずのリンク先URLが貼り付けていなかったこと(笑)詐欺にもならないタダのいたずらメールです。

 

いかがですか?今回取り上げた3つの例に共通するのは「雑な(おかしな)日本語」です。表現のおかしな日本語ばかりなのはもちろん、日本語に特有の前置き表現「恐れ入りますが」「大変お手数ですが」や「何卒ご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。」など顧客への気遣いを示す表現は一切含まれていません。おそらく何らかの外国語表記の文面を質の悪い自動翻訳で日本語に置き換えたのだと思います。大手企業からこうした「普通のビジネスマナーに則さない文面」が来ることはありません。こうした、読者に違和感をもたせるような文面のメールを見た瞬間に違和感を逃さず捉えることができるようにしましょう。自信のない方は、同じ文面を誰かほかの人にも見てもらいましょう。二人に見せて二人とも「正しい日本語」と判断されない日本語のメールは100%ニセモノです。

 

ことのは塾では現在3月25日-4月4日に開催される春期集中講座の受講者を募集しています。こういうおかしな日本語を書かないよう、そして簡単に詐欺メールを見抜けるよう、一緒に勉強しませんか??問い合わせは

 

070-3318-4565

kotonoha_language@helen.ocn.ne.jp

 

まで。何卒よろしくお願いいたします!!